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逆ソクラテス
◆出版=集英社
◆著=伊坂幸太郎
◆装画=junaida
◆装丁=名久井直子
『逆ソクラテス』表紙イラストレーションの感想
筆致は「静」です。
マチエールやにじみによる個性を避け、水彩の透明性を抑制的に生かしながら、どちらかというとマットに色を置く塗り方。細部への繊細な気遣い。建物の不動的存在感。
筆致は間違いなく「静」です。
それにもかかわらず、絵全体のなんと躍動感に満ちたことでしょうか。
主人公然として遠方を見やる少年をはじめとして、子どもたちがそれぞれのポーズでしがみつく。
その土台には角の生えた跳ね馬。
個別に見れば静的なはずの建物は、重力を無視して中心から「発生」したかのような動的な存在感を発揮します。
動きにあふれた構図、そしてそれぞれのキャラクター・パーツ。
そこには冒険の予感に似たわくわくがあります。
junaidaさんとはどんな絵描きなのだろう…ということに思いを馳せると、過去のインタビュー記事に出会うことができました。
すこし過去のものではありますが、2つのインタビューからはjunaidaさんの今に通じるエッセンスを感じ取ることができます。
それは、絵の受け取り手への心配り。
インタビューの中でjunaidaさんは、「絵で遊んでほしい」と語っています。
芸術家として「俺の絵を見ろ」でなく、自己を空っぽにして「この絵がお好みでしょう」でもなく、確固として自分の絵をつくっていきながらそこに見る人の空想を許す余白をつくる。
自らの絵を、他者の空想の居場所にしてしまう。
そんな姿勢で絵を描いたすこし過去のjunaidaさんの絵は、「逆ソクラテス」の表紙を見るにつけ、まっすぐに現在につながっているように感じます。
表紙を見たときに直感した胸のわくわくは、junaidaさんが残してくれた絵の余白によるものだったのだと気が付きます。
「逆ソクラテス」表紙の絵が好きな方へ。こちらの記事もどうぞ。
物語みたいな、絵本みたいな、ゲームブックみたいな。画集『Michi』|著・装画=junaida
ところで、緻密で大胆なjunaidaさんの絵には、ふたつの「遊び方」があることを指摘しておきたいと思います。
ひとつは、絵全体から受ける直感的印象をもとに、未来への余白を自由に思い描くこと。
もうひとつは、junaidaさんの緻密な絵の細部に目を向け、その過去や現在に起こる物語に思いを馳せること。
どちらも楽しい空想で、一枚絵だからこそのエンターテイメントです。