この終わり方の何が素晴らしいのか?!スポーツマンガの金字塔『SLAM DUNK』井上雄彦(マンガ/感想)

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日本に住んでいれば一度は何らかの形で目にしたことがあるバスケットボールマンガ、『SLAM DUNK』。
いろんなひとが讃えていますが、あまり語られていないけれどぼくがもっともすごいと思う点を今日は語ってみたいと思います。

●SLAM DUNKについて
『SLAM DUNK』(スラムダンク)は、バスケットボールを題材にした井上雄彦による日本の漫画作品。『週刊少年ジャンプ』にて、1990年(42号)から1996年(27号)にかけて全276話にわたり連載され、アニメやゲームも制作された。
(wikipediaより)

<!>本記事は主に最終回のことについて語り、ガッツリネタバレをします。ご注意ください。

『SLAM DUNK』がスラムダンクで終わらなかった衝撃

何言っているの?という感じの見出しになってしまった……。
いきなり結論なのですが、SLAM DUNKという作品は主人公のスラムダンクでラスボスを倒さなかったという点が異質で、SLAM DUNKを名作たらしめている大きな要因なのではないかと思うのです。

少年マンガは必殺技でボスを倒す

少年マンガはいつも、必殺技で敵を倒します。

  • 悟空は、元気玉で
  • 剣心は、天翔龍閃で
  • ゴンは、ジャジャンケンのグーで
  • 一歩は、デンプシーロールで
  • セナは、デビルバットダイブで
  • 大空翼は、ドライブシュートで
  • 田中俊彦は、幻の左で

「必殺技」は、少年読者の憧れを体現したもので、カタルシスをもたらすものです。
必殺技は、一発逆転を起こす。
必殺技は、瞬時に戦いを終わらせる。
必殺技は、すべてを解決する。

「これさえ発動できれば、必ず勝てる」というまさに「必殺」なのが、必殺技。
現実にはなかなかそんなものはなくて、人生はプロセスも結果の出方もなかなかに地味なものなんだけど、だからこそ、必殺なるものにぼくたちは憧れてしまうんだと思います。

一度もスラムダンクで勝負を決めていない

さて、SLAM DUNKを注意深く読むと、一度も桜木花道のスラムダンクで勝負を決したことはないことに気が付きます。
これは繰り返しSLAM DUNKを読んだぼくもかなり最近気づいたことで、大きな発見でした。

(県大会の陵南戦での湘北のラストゴールは桜木花道のダンクではあるが、①スラムダンクと言ってよいものか、②あのゴールで陵南を倒したか という疑問があり「スラムダンクで勝負を決めた」としてはノーカンとしました。)

作中で何度か桜木花道がダンクを決めるシーンはありますが、驚くほど「必殺技」としての登場は少ない(皆無に近いのではないかとも思います)のです。

これは、桜木花道の本当の必殺技がリバウンドであると作中で定義されていくことも関係するかもしれません。
桜木花道は何度もリバウンドでチームの窮地を救います。
仇敵(?)流川楓にも「リバウンドにはちょっと期待している」と言わしめます。
リバウンドが桜木花道の武器になっていくに伴い、スラムダンクは必殺技としての存在感を薄めていきます。

桜木花道はジャンプシュートを練習する

物語の後半で、桜木花道は安西先生たちと一緒にジャンプシュートの特訓をします。
1日2,000本、10日で20,000本のシュート練習を提示する安西先生に、桜木花道が

「2万で足りるのか?」

と返すのは名シーン!
漠然と20,000本ですげー!と感じていたのですがあらためて計算してみました。

・15秒に1本シュートだと仮定
・1分間に4本
・1時間に240本
・2,000本のシュートをするには
・2,000÷240=8.3時間

「休みなくシュートを続けたとして」かかるのが8時間強なんですよね。
昼ごはんや普通の休憩もあったでしょうから、少なめに見積もっても10時間はシュートだけの練習をしていたことになります。それを10日間。
いやーすごいですね。。。

すごい努力……。と褒めたくなるのですが、基礎練ばかりだった桜木花道にとって、
「シュートの練習は楽しかった」
というナレーションが入るシーンもあります。
「努力」とは違う感覚もあったのかもしれません。

桜木花道のラストショット

話は最終巻の山王工業戦に飛びます。
山王との勝負を決める最後のボールは桜木花道の手に。
桜木はジャンプシュートを決め、それが決勝点となり、湘北高校は勝利します。

体躯に恵まれ、凄まじいジャンプ力で跳ねれば頭をバックボードにぶつけてしまう男、桜木花道。
彼に似合う必殺技は、たぶんスラムダンクだったでしょう。
けれど、そのスラムダンクはついぞ勝負を決める場で披露されることはなく(少なくとも作品中では)、
物語のクライマックスでラストショットとなったのは
恵まれた才能からもっともかけ離れた「何の変哲もないジャンプシュート」。

邪推かもしれないけれど、本当は人生に必殺技なんかないんだ、という
作者井上雄彦さんのメッセージを感じてしまいます。

「あるとしたら、日々培ったものだけなんだよ」と。

ジャンプの裏の?系譜、「才能」「血筋」「覚醒」

SLAM DUNKという作品が、
少年マンガの文法から言えば主人公の必殺技になるはずだった「スラムダンク」を使わずに、
最後の試合の勝負を決めるということの意味を語って来ました。

ここで週刊少年ジャンプのお題目を思い出してみます。
ご存じの方も多いと思いますが、「友情・努力・勝利」です。
仲間との友情と、努力があれば、勝利がもたらされる。それを描くのがジャンプ作品なんだ、と。

けれど意外とジャンプ作品は、友情・努力・勝利をしていないのです。
していないというより、それを超えるルールが働いているということかもしれません。

勝手にぼくがそれを名づけるとしたら、「才能・血筋・覚醒」です。

才能と血筋に恵まれた主人公が土壇場で覚醒をして、強敵を倒す。
そこには「必殺技」に似たロマンがあります。
実際、悟空が超サイヤ人になったとき、悟飯が超サイヤ人2になったとき、
悟空が超サイヤ人3を披露したとき……
我々の血は沸騰するがごとく騒ぎました。

もちろん、その覚醒には土台としての努力や友情がありました。
努力や友情があれば、土壇場での「奇跡」はあるんだと、ジャンプ作品の覚醒が教えてくれる、
そんな側面も確かにあると思います。

でも、でもですよ。

……実際にはないじゃないですか。悲しいけど。
会社の仕事で、家庭で、受験や勉強で、そんな覚醒はまず一度も起こらないじゃないですか。
プレゼン資料をどれだけ根気を込めてつくっても、
プレゼン当日に資料や自分が覚醒して実際以上のパフォーマンスになることなんか、
ないじゃないですか。
資料はつくった以上の情報は語らないし、
プレゼンは練習した以上に上手くはできない。

桜木花道のラストショットには、覚醒が含まれていません。
練習した通りのことが練習した通りに発揮された。その結果の勝利。
それは、「現実に起こりうる大逆転」だと思う。

桜木花道のラストショットは、覚醒へのアンチテーゼだったかもしれないと思います。

必殺技はないのかもしれない

結局、必殺技や覚醒に狂喜乱舞してしまうのは、私たちの怠惰な心ゆえなのかもしれない。
コツコツと勝利を手繰り寄せるステップをショートカットして、一気に成功にたどりつきたい。

一攫千金的なロマンが、そこにあるのだと思います。

そして、桜木花道と井上雄彦先生が、それを打ち砕いてくれました。
感動とともに。

こんな感想文を書いてしまったから、ぼくもコツコツと
これからも記事を書いていこうと思います……。

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映画もめちゃめちゃ面白かったです…。
まだ見ていない方はぜひ!

映画の前日譚「ピアス」が収録されている冊子。

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