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『父と私の桜尾通り商店街』
◆出版=角川書店
◆著=今村夏子
◆装画=川嶋恵津子
◆装丁=鈴木成一デザイン室
『父と私の桜尾通り商店街』表紙イラストレーションの感想
目に飛び込んで来るのは、独特な「2色」です。
「色」。
グレイッシュな緑を基調としながら、建物をオレンジ色で統一しています。
この配色から、絵がノスタルジーをまとって見えます。
彩度のある色を用いているので「モノトーン」と言い切れるわけではないですが、色数を限定して全体を描くと、こんな心象を与えることができるのですね。
色があるのに、モノクロのようなセピアのような、懐かしい印象の絵。不思議です。
それから、手描き(だと思うのですが・・・)ならではの、ゆらぎと歪み。
色という点で言うと、基本はベタ塗りなのですが、ベタ塗りの中に色のムラが残されている。
色ムラのあるタッチが、ノスタルジックな色遣いとも相まって、ぼんやりと「記憶の中にある風景」という感じを強めています。※
造形の歪みも同様ですね。
垂直のはずの柱がすこしななめに傾いていたり、道の白線が微妙に直線でなかったり。
わざと形状を歪めたようなあざとい変形ではなく、手描きだからこその「自然と生まれた歪み」が、「記憶の中の」につながっています。
ノスタルジックな表現をしたいときには、色と形の表現は、お手本にしたい絵です!
(もっとも、塗り方にしても形状にしても、川嶋恵津子さんの修練あってのもので、真似しようと思って簡単にできるものではありませんが・・・)
ノスタルジックさとは別軸の話ですが、装画の機能としての「目立つ」「印象に残る」は、色の組み合わせで達成されているように感じました。
装画では、モノトーンは不利だと言われます。
完全なモノトーンではないにしても、色数を抑えて描かれたこのイラストレーションは、そのまま描けば「不利」になったのかもしれません。その障害を、緑とオレンジという「配色」でクリアしたものと思います。反対色に近いこの組み合わせは、ドキッとするのですよね。目が留まってしまう効果があります。実際に私は、装画のレビューをするにあたって、本屋さんでこの本を手に取ってしまいました。
色相環の離れた色を組み合わせることで、目立つイラストレーションにすることができる。
頭の引き出しに入れておきたいワザです。
※この記事は「表紙の印象だけ」で語っています。内容を閲読したうえでのコメントではございませんので、ご注意ください・・・。