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海より深く
◆出版=集英社文庫
◆著=矢口敦子
◆装画=吉實恵
◆装丁=坂川栄治・嶋田小夜子
『海より深く』表紙イラストレーションについて
「波」の力強さを、こんなにも表現した絵にこれまで出会ったことがありません。
水面の光(=白色)は、水そのもののなめらかさを表していますが、その一方、
力強くうねる波の形状には有無を言わさぬパワーを感じます。
画像では細部までは確認できないのですが、装画をよく見ると、波の流れのひとつひとつが
毛糸のような太く短い線で描かれているのがわかります。
太くて短い線が束となり、波の「面」をつくっています。
ですが、毛糸というには、絵に込められたエネルギーがあまりにも強大すぎるように思います。
「縄」という形容がもっともしっくり来ます。
その上に乗ったならば、ぐわんぐわんと上下左右に揺すられそうな、そんなイメージが波の絵から簡単に想起されます。
太い色の縄の束で描くという手法が、そのような力強いイメージを喚起させているのですが、
さらによく見ると、そこに繊細な技術が込められているのが理解できます。
波の面の、色のわずかな違いが丁寧に差異化されている。
そもそも縄そのものが、ひと色でなく描かれている。
しばしば多くの人から好まれる「青」という色だからこそ、安易にひと色に決めていないという吉實恵さんのこだわりが見て取れます。いくつもの青を捩った、まさに縄ですね。
さて、この装画の吉實恵さんですが、過去に当サイトでもご担当の装画を扱ったことがあります。
今回で3度目の吉實恵さん記事なのですが、
3作とも異なったタッチのイラストレーションになっています。
そのどれもが、うなるようなクォリティ!
イラストレーターの仕事は、それぞれのイラストレーターに特有の個性があり、
デザイナーが作品やプロモーションの趣旨に合うイラストレーターを選択する、
という流れで行われるのが普通のようです。
吉實恵さんのイラストレーションは、あえて絵のスタイルを固定していないように見えます。
非常にロックです。
尊敬します。