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ひと
◆出版=祥伝社
◆著=小野寺史宜
◆装画=田中海帆
◆装丁=大久保明子
『ひと』装画イラストレーションについて
前を見据える青年の表情を、斜め後ろからの画角で描写したイラストレーション。
とりわけ目の描写が印象的です。
青年の目は、力強いわけでも憂いに満ちているわけでもなく、でも何も考えていないわけでは決してなく、何かの想いをたたえた色をしています。
装画を見るひとにそう感じさせるのは、下まぶたの描き方にあるのではないでしょうか。
下まぶたがすこし上に上がって描かれており、黒目にかかっています。
こういう描き方をすることで、目を細めて、どちらかと言うと遠くを見据えたような目の表情になっています。
目というのは、ほんのわずかな数ミリのちがいで、本当に伝える表情を変えるのですね。
もうひとつ、田中海帆さんについて調べていたところ、主要な画材に「水彩」とありました。
おそらくこの装画のイラストレーションも、水彩絵の具で描かれたものでしょう。
キレイに均等に塗られた色の中に、水彩独特の水のにじみが立ち現われています。
青年のもの思う絵に、水彩のゆらぎはとてもマッチしているように感じます。
あるプロのイラストレーターが、「イラストレーションに水彩は、印象が弱まって向かない」という趣旨のことを言っていました。これはイラストレーションの世界で一般化された認識のようです。
でも、田中海帆さんの絵のように、水彩でも均等に・キレイに・そして温かく、
イラストレーションを描くこともできるのですね。
自分のスタイルを探すのに、常識に捉われてはいけないということなのかもしれません。