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はつ恋
◆出版=ポプラ社
◆著=村山由佳
◆装画=agoera
◆装丁=鈴木久美
『はつ恋』表紙イラストレーションの感想
「イラストレーション」と言えば、マッドな塗り方の絵を指すことが多いようです。
しかし、agoeraさんのこの絵は、それとは逆。
水彩絵の具(実際にそうかはわかりません)の持つ、透明でにじみの強い塗られ方をしています。そしてそれが、このイラストレーションの印象を決定づけています。
たとえば障子の上部にある木の枠は、その一本一本が異なる色をしています。なかにはかなり赤っぽい色味を発しているものもあります。
猫と畳の境目はあいまい。
縁側の外に見える風景は、植物のようではあるけれど具体的な何なのかは不明瞭。
そんな色の曖昧さが、部分でなく全体をひとつに統合しているようにぼくには思えます。いわば絵全体が主題となっているような印象を受けます。
それから、本来直線となっている箇所が、フリーハンドのブレを存分に反映しているのも面白いです。大きくゆがんでいるわけではなく、しかし厳密な直線にはなっていない。色だけでなく線にもあいまいさが取り入れられていて、やはり部分よりも全体を見せたいという意思を感じ取れます。
色のあいまいさと、線のあいまいさによって、
このイラストレーションのシーンが過去の回想となっているようにぼくには捉えられます。
過去の記憶をたぐるときのような、不確かさと懐かしさが、このイラストレーションの魅力なのではないかと思います。