まあるい背中に寂しさが宿る。シンプルで、王道で、誠実なイラストレーション。『鉄道員(ぽっぽや)』表紙イラストレーション|装画=井筒啓之

鉄道員(ぽっぽや)

◆出版=集英社文庫
◆著=浅田次郎
◆装画=井筒啓之
◆装丁=鈴木成一デザイン室

『鉄道員(ぽっぽや)』表紙イラストレーション(装画)の感想

表情が描かれていないんですよね。
それなのに、「この人はいま、寂しいのだ」ということが伝わってくる。
特段、感情を表す効果表現はありません。

寂しさのもとは、背中でしょう。
まあるくすぼんだ背筋。姿勢が人の感情を表現することは誰でも知っていますが、姿勢だけでこんなに伝わる絵になるとは思いませんでした。
猫背になった背中だけでなく、下がった肩やだらんと力なく下がる腕なども、寂しい心根を表しています。
すこし上向き、前を見据える顔は、何かを思い出しているかのようです。

背中の丸みがもっともポイントではありますが、その他のディテールが重なってこのクオリティになっていると言えます。日頃からの観察眼のなせる業ではないでしょうか。

色についても、大変丁寧です。
井筒啓之さんの絵の塗りは、いつも大変繊細で美しいです。
この絵では、とりわけ、背中が重ための色になっていることで、人物の寂寞とした感情をよりはっきりと表現しています。

姿勢と色遣いで、人物の感情を的確に伝える絵の好例と思います。

鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)

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