繊細なタッチから立ちのぼる人物の情感。『夜はおしまい』表紙|装画=夜久かおり

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夜はおしまい

◆出版=講談社、◆著=島本理生、◆装画=夜久かおり、◆装丁=高柳雅人

『夜はおしまい』表紙イラストレーションの感想

情報量は決して多くありません。女性一人が寝転がるシンプルな構図。それなのに、何か訴えて来るものがある。絵の主役であるこの女性の情感が伝わってくる感じがします。

それは何から生まれる印象なのでしょうか。

絵の中でもっとも目を引くのは、女性の髪です。胸に抱えられたオレンジ色のガイコツのようなものーーは、色といい非日常感といい目立つのですが、それ以上に髪の毛がクイックに目に飛び込んで来ます。それは繊細で独特なタッチよるものでしょう。

画面全体は淡い色でフラットに着彩されているなか、髪の毛だけが細かなタッチで質感が表れています。周囲とのタッチの差異が、目線をそこに引き寄せます。

もし、髪の毛の表現がまったく別だったらーーたとえば、周囲との同じフラットな色彩表現だったらーー、絵の印象は大きく異なるでしょう。それくらい、この絵の(そして夜久かおりさんの絵の)印象を決めているのは、繊細なタッチの髪の毛です。

ちなみに、夜久かおりさんのほかの絵では、同様のタッチが髪の毛以外にも、たとえば衣服の一部などにも用いられます。とてもキレイです。

もし、全体がこのタッチで描かれたとしたら、すこし情報量としては多くなりすぎるかもしれません。繊細で、丁寧で、魅力的なタッチを、的を絞って使っていること。それにより、絵全体の素敵さや目を引く度合いが強まっているのでしょう。

つい個性的なパーツに目が行ってしまいましたが、抑制的に描かれたほかの部分もじつは大変すてきです。

女性らしいやわらかな曲線や、肩のチャーミングなタトゥーなどなど。個性的なタッチの後ろ髪と、丁寧に線やディテールの集合でもって、顔が見えなくとも情感の伝わる佇まいが生まれています。

 

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