この記事には広告を含む場合があります。
記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。
物語の海を泳いで
◆出版=小学館
◆著=角田光代
◆装画=野田あい
◆装丁=藤田知子
『物語の海を泳いで』表紙イラストレーションの感想
初レビューですが、ずっと気になっていたイラストレーターの方です。
野田あいさん。
HBファイルコンペvol.10 、TIS公募展第2回でそれぞれ受賞。
2008年より独立して活動されているそうです。
以来、多くの本の表紙(装画)制作に携わっておられます。
さて、『物語の海を泳いで』の表紙イラストレーションについて語りましょう。
かわいい…かわいいですよね。
まず、人物や猫の造形がかわいい。
細部は大胆に省略され、顔にも衣服にも余計な線はありません。
それでいて、細部まで行き届いた造形。
省略されているのに、人物の表情は感じ取ることができます。
数少ない線、ほとんど点のような短い線でそのように表情が表現できるのは、目や口を表す線の角度や形に細心の注意が払われているからにほかなりません。
そのような造形の丁寧さは画面すべてに当てはまることで、よくよく見てみるとボートのわずかに湾曲した縁も、水面の光の揺らぎも、無造作なようでひとつひとつが丁寧に形成されています。
次に、線がかわいい。
野田あいさんの絵は基本てきにペインティング(塗り)の絵なので、「線」と表現するのは適切ではないのかもしれません。
言い換えれば、色と色の境目。その部分に目を近づけてようく見ると、境目のラインがよぼよぼと波打っていると気が付きます。
これによって全体の印象が柔らかいものになっています。
これ見よがしにそれを目立たせるでもなく、しかし絵の印象に影響を与える程度の存在感は持っていなければならない。
そのバランスがちょうどよくて、見た目の心地よさにつながっているのだと思います。
そして、色がかわいい。
最後に色について触れますが、野田あいさんのイラストレーションは色のチョイスが最高にすてきです。
象徴的なのは、空の色。
こんなふうな黄色い空は、実際には出会うことはないでしょう。
でも野田あいさんは黄色にした。
一方で、空と近い色相であるはずの水面は、本来の色に近い青で塗られている。
この色のチョイス!センス!
青全体を黄色に置換してしまうのではなく、空だけを黄色にする。
そうすることで、画面の上半分と下半分で色合いがちがっていて画面にリズムが出ている感じがします。
色相は統一させて印象をひとつにまとめていく方法ももちろんあります。(個人的にはそのような絵も大好きです。)が、野田あいさんのこのイラストレーションではあえて変化をつけつつ色のバランスをとってひとつにまとめていく方法を選んでいます。空と水面とが混ざり合っていく表現が本当にすてきですよね。空と水面の色相をあえて異なるものにしたからこそ立ち現れた表現だと思います。
野田あいさんのイラストレーションは、どの作品も色がすてきなのですが、黄色の取り入れ方に才能が光っている印象を持ちます。
どの作品も色使いが気持ちよく、「ここに黄色を使うんだ」とか「この色に黄色を混ぜる(強めるんだ)」と思わされます。
壁に掛けておきたいなあ……。